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神戸家庭裁判所 昭和55年(家)2149号 審判 1981年9月21日

住所 神戸市

申立人 君原嘉子

国籍 オーストラリア 最後の住所 神戸市

被相続人 カール・ロバート・ワイプス

主文

被相続人の遺産のうち日本以外にある不動産を除く一切の財産について

住所 芦屋市○○町××-××

事務所 神戸市中央区○町×××○○ビル×階×××号

○○弁護士会所属弁護士 ○○○

を相続財産管理人に選任する。

理由

第一本件記録中にある申立人の戸籍謄本および住民票写し、被相続人の死亡診断書、リベリヤ共和国海運局作成の船員資格証明書(License of Competence to Merchant Marine Officer)、大阪駐在オーストラリヤ総領事作成の証明書、○○・○○○○○○・○○○○○会社(○○○○○ ○○○○○○○ ○○○○○○○○Co.)より○○○○○○○○株式会社(○○○○○○○ ○○○○○○○○○○○○○ ○○○○○○○○○○○○Ltd.)あて一九七九年一〇月二三日付書簡の写しならびに家庭裁判所調査官の調査の結果および申立人の審問の結果によると次の事実が認められる。

一  被相続人は一九三〇年一一月二五日オーストラリヤ国ニューサウスウエールズ州○○○○○○(○○○○○○○○○)で生まれ、同国籍を有するもので、一九七六年八月一〇日までに「永在地」を神戸市生田区○○町×丁目××-×(この場所はのちに住居表示制度の施行により同町×丁目×-×と呼ばれるようになつた)に定めて上記船員資格証明書の発行をうけ、○○・○○○○○○・○○○○○社所属船○○・○○(○○○○○○)号に機関長として乗船中昭和五四年六月頃肝硬変症に罹り小樽港に寄港した際上陸し同年九月二五日頃小樽市○○町×丁目×-×所在○○○○○○病院に入院し同月三〇日同病院で死亡した。そして大阪駐在オーストラリヤ総領事館が同国大使館を通じ本国に照会した調査によつても同人の相続人は判明しなかつた。

二  被相続人が遺言をしたことを窺わせる資料は何もない。

三  申立人は以前神戸市生田区○○○通×丁目のアパートに住んで○○町×丁目の外人バー「○○○」に勤めているうちに昭和三五年五月被相続人と知り合い、同アパートで同棲生活を始めた。申立人は翌三六年バーの勤めをやめ、麻雀クラブを経営したが昭和三八年頃にはこれもやめ、その後は被相続人から毎月定期的に仕送りをうけ、その金額は当初月額四万円、昭和五○年頃には月額二〇万円に増額されこれで生活するようになり、昭和四一年頃肩書住所に転居した。申立人は被相続人と婚姻届は提出しなかつたが被相続人は申立人を○○○○○○と呼び、退職後は日本で住宅を購入して申立人とともに永住する意図を申立人に話していた。また被相続人は神戸入港時のほか年に一回、二ないし三ヵ月の休暇には申立人方で生活し、その他の港へ寄港した際には日本国内は勿論朝鮮・香港・インドネシヤ等においても申立人に連絡し費用を送つて、これにより申立人が入港先に出かけて生活を共にし、昭和五二年五月三一日から同年九月二日までの間高血圧の治療のため被相続人は申立人方から神戸市内の○○○○病院に通院してその治療費二一万円余の支払いは申立人がし、また同年被相続人は朝鮮から香港までの航海に或いは仁川、香港に停船中、申立人を妻として同伴乗船させることについての許可を船長に求めたことが上記○○・○○○○○○・○○○○○社に記録されている。そのため被相続人が死亡したとき○○・○○号の船長・乗組員から申立人の住所にあてて「ミセス・ワイプス」として弔電が届けられ、同社はこれらの記録に基づいて、申立人が「故ワイプス氏の正当な相続人でないことが判明した場合には全額返済する」旨の契約書の提出と引換えに被相続人の未払給料精算額の半額として三〇万円を、一九七九年一二月日本における代理店○○商会を通じ申立人に交付した。また上記被相続人から申立人への毎月の仕送りは後記○○○○○○銀行香港店から被相続人の死亡の翌月頃まで直接申立人あて送金されており、同銀行は一九八○年五月一六日付で「マダム・ヨシコ・キミハラ」として申立人に対し「(故)K・R・ワイプス氏の依頼による貴殿あて毎月二〇万円の送金」は同氏の死亡の通知に接したので停止する旨通知している。

四  被相続人の遺産として現在までに判明しているものは、上記認定の被相続人に支払われるべき未払給料(その半額は既に申立人に支払われており、残りが未払いのままになつている)のほか、いずれも○○○○○○銀行(○○○○○○○○○○○○Bank)香港店にある各種預金で、

1  定期預金、口座番号×××-×××-××××-×

預け入日 一九七六年八月一三日

満期 一九八一年八月一三日

金額 二二、三九八・六四香港ドル

2  定期預金、口座番号×××-×××-××××-×

預け入日 一九七六年一〇月二九日

満期 一九八〇年一〇月二九日

金額 一五、七三一・〇三香港ドル

3  当座預金、口座番号×××-×××-××××-×

一九八一年三月二六日現在高 三五、八〇五・七七香港ドル

以上三口の口座があり、同銀行は引き続き口座の残高確認書を申立人に送付している。

第二以上の認定事実により検討するに、

一  被相続人は死亡時最後の住所を自ら選択により神戸市に定めていたと考えられるので同人の死亡で開始した相続については日本に国際的管轄権がある。

二  日本において死亡した被相続人の国籍はオーストラリヤであるから、同人の死亡による相続については法例二五条により被相続人の本国法に依ることとなる。そして同人は遺言をした形跡はない。そこで無遺言相続の同国における法制を調べると、メルボルン大学法律学講師 I. J. Hardingham 氏の The Law of Intestate Succession in Australia and New Zealand(The Law Book Co. Ltd. 1978年刊)一五〇頁によると動産の無遺言相続は死亡時における死亡者の住所地法により、不動産については所在地法による、とされているので、結局被相続人の遺産のうち日本以外の国にある不動産についてはその所在地法により、その他の一切のものについては日本法によることとなる。そして現在までに判明している被相続人の遺産は全て動産である。

三  被相続人の相続人が今のところ明らかでない。そして申立人は被相続人の内縁の妻で同人の仕送りによつて生活していたものであるから、同人の遺産について利害関係を有するものということができる。そうすると日本民法九五二条によつて申立人は被相続人の相続財産について利害関係人として相続財産管理人の選任を申立てる権限を有するものということができる。

四  よつて当裁判所は同法条により被相続人の相続財産のうち日本以外にある不動産を除く一切の財産につき、○○弁護士会所属の弁護士○○○を相続財産管理人に選任することを相当と認め参与員○○の意見をきいたうえ主文のとおり審判する。

(家事審判官 三好徳郎)

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